人と人を“むすぶ”おむすび
水口 拓也さん(山角や むすび手)
2003年 京都造形芸術大学 彫刻コース卒業
爽やかな風が心地いい週末の朝。岐阜にあるセレクトショップEUREKAで開かれたイベントの一画に、水口さんの営む「山角や」がお店を開きました。「山角や」は店を構えず、出張専門でオーダーメイドのおむすびをつくるお店。日本人にとって最も身近なソウルフード「おむすび」の魅力を、「牡蠣の燻製オイル漬け」や「焼鮭の甘酢漬け」「明太子しらすパクチー」といったオリジナルメニューの販売やワークショップを通して発信しています。
水口さんが「山角や」を始めたのは、自分の昼食にと会社におむすびを持参したのがきっかけ。いつしか周りのスタッフや仕事関係の人たちにもつくるようになり、喜んでくれている姿を見て、もっと多くの人を笑顔にしたいと「山角や」をはじめました。それから5年、活動を通してたくさんの人や食材と出会い、その縁をおむすびに込め、全国各地に届けています。
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この日はワークショップも開催。参加者の前のテーブルには、塩、海苔、鮭、明太子、パクチー、チーズ、大葉など、約20種類もの食材が並びました。食材の多くは、水口さんが「山角や」の活動を通して出会った生産者や販売元の方の紹介で集まったものです。
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食材の魅力が最大限に引き立つように。炊飯器、土鍋、鉄鍋それぞれに合わせた方法、蒸らし時間で炊き上げたご飯を参加者全員で食べ比べながら、その違いや手間をかけることの大切さを学びます。
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参加者の「さっきよりも、ちょっと米粒が固めかも」「こっちの方が甘みが強い気がする」といったつぶやきに、丁寧に応える水口さん。「せっかくの縁なので、出会った人とはお互いに学び合う環境をつくりたい」という姿勢が、多くの人や食材との出会いにつながり、その縁をより深いものにしているのだと感じました。
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おむすびのむすび方のレクチャー。具材を包み、外は固めに、中はふっくらと仕上げるのがポイント。キュッキュッとリズム良くむすんでいく様子は、まるで手品やマジックのようです。
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ワークショップの最後は参加者同士でペアを組み、おむすびをむすんでプレゼント。会話を通して互いの理解を深め、相手を想いながらむすびます。「美味しいよ、ありがとう。」と笑顔でおむすびを頬張る皆さんもその様子を見守る水口さんも、とても優しく、温かい表情をしていました。
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お店は出張専門のため、季節や場所によってメニューも変わります。オリジナルのものばかりなので、悩みながら選ぶのも楽しみのひとつ。選びきれず、全種類を注文するお客様もいるほどです。
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人気メニューの「焼鮭の甘酢漬け」。ふっくらとしたお米と甘酸っぱい鮭に、パリっと焼いた鮭の皮と大葉がアクセント。あまりに美味しくて、一気に食べてしまいました。
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学生時代は彫刻を学んでいた水口さん。制作の多くが個人作業ですが、自分の表現したいものをかたちにしようとする時、素材と真剣に向き合うこと、良い作品を作るための努力を惜しまないことの大切さを痛感したそうです。また、愛情を込めて作った作品を多くの人にも見てもらいたいと、相手(鑑賞者)を想像して制作することも意識するようになったそう。これらはデザインの仕事や「山角や」での活動にも通じているのだと言います。
「おむすびは誰でも簡単に作れるし、コンビニで手軽に買うこともできる。でも、こだわりの食材で、相手のために想いを込めてむすんだおむすびは、それとは全然違うんです」 -
水口さんは必ず目の前のお客様と会話し、その人の性格や好み、体調を考えて、オーダーメイドでおむすびをむすびます。想いを込めて「あなた」のために。そんな風にして出来た温かいおむすびだからこそ、たくさんの笑顔につながり、新たな縁をむすんでいくのでしょう。
text:中西絵里加/photo:CHIMASKI/July,2017
山角や(さんかくや)
E-mail
Facebook http://www.facebook.com/sankakuya12
http://sankakuomusubi.jp/
水口 拓也(みずぐち たくや)
1980年京都府生まれ。京都造形芸術大学彫刻コース卒業。卒業後は沖縄の大学院に進学し、その後東京のデザイン会社に就職。プロデューサーとしてカタログ、Web、パンフレット、パッケージデザイン、イベント企画などを手がける傍ら、2012年から出張専門でオーダーメイドのおむすび屋「山角や」を始め、全国各地に出向きおむすびをむすんでいる。
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