全国各地で多くの方にお会いすると、「私がよく行くお店の店主は、京都芸術大学の卒業生と言っていました」「私の使っているこの商品、貴学の卒業生の方の作品です」とご紹介いただくことが多々あります。私たちが知っているお店もあれば、「えっ!?そんなところで」と思わぬ出会いに嬉しくなることもあります。

この度の「開学40周年事業」の目的は、卒業生の皆さんの活動を可視化することにより、新たなつながりを創出することです。そこで全国各地で活動されている卒業生の取り組みをお伝えしたいと考えて生まれたのが、この「卒業生のいるお店」のWEBサイトです。

お届けしたいものは商品自体の魅力はもちろんですが、その卒業生の方の想いや考え、出会いなどの物語です。「いいな」と思われたら是非そのお店に行ったり、コンタクトをとってみてください。そこから新たな「つながり」が生まれることを期待しています。

卒業生の情報を教えてください。

「卒業生のいるお店」では、これからも京都芸術大学(旧校名:京都造形芸術大学)・京都芸術短期大学 卒業生の活動を随時発信していきます。自薦・他薦問いません。

■メールのタイトル
「卒業生のいるお店の紹介」と記載

■本文
・紹介したい卒業生のお名前、活動内容、活動場所、連絡先(電話やメール等)
・紹介者(メール送付者)のお名前、連絡先

愛知県

自然と共につくる、暮らしとパン

今井 早百合さん(自家製酵母パン屋 Cavasiba店主)
1989年 京都芸術短期大学 染織テキスタイルコース卒業

愛知県一宮市にある、パンのお店「サヴァシバ」。自家栽培の野菜と酵母を使い、薪釡で焼くなど、手間ひまをいっぱいにかけて作られたパンが並びます。
もともとご主人の実家がここで農業を営んでおり、家族で東京から愛知に移住。
自然の営みを大切にしながら「自分たちでできることはできる限り手づくり」の生活を目指しているのだそう。現在は畑で採れる旬の野菜を工夫しての食事など、職住一体で、自然と共に生きる理想の生活に少しずつ近づいているといいます。
今井さんはこれまでを振り返り、「未経験からの挑戦に対して色々言われることもあったけれど、応援してくれる人もいました。主人もこの生活を受け入れてくれる。応援してくれる人がいるって、ありがたいですね」と話してくださいました。
暮らし方もお店の事も、今井さんが「こうしたい!」とご主人に相談し、ご主人が具体的な方法を探り、形を作ります。性格の異なる二人だからこそ出来るチームワーク。今日も「美味しいパン」になるようにと、精一杯の愛情を注いでいます。

  • 大草原の小さな家に憧れていたという今井さん。岐阜県にあった古民家の骨組みを移築し、自分達で建て直したのだそう。ご主人が試行錯誤した手作りのパン窯。そこから伸びる煙突が印象的です。

  • お店を始める前にはご主人と東京のパン屋をあちこち巡り、自分たちが美味しいと思ったパンの材料の調合を研究しました。オリジナルの調合で、ふんわりと口に広がる上品な味を生み出せるのは、自家栽培の自然農によって素材の良さを知り尽くしているからこそできること。値段もお手ごろで「こんなお店、奇跡だよ!」と他店の方から賞賛されるほどです。「パン屋で働いた経験もなく、普通を知らなかったことが良かったのかもしれないですね。自分たちが食べたいもの、作りたいものを作って、今のお店があります」と今井さん。

  • この日、お店のショーケースに並んだのは、食べ応えのあるハード系のパンや、自分たちの畑で育ったサツマイモ、小豆、よもぎを使った3種類のあんぱん。ご主人が午前2時から仕込みを始め、開店時には焼き上がったばかりのパンの香ばしい匂いが店内に漂います。

  • 今井さんとご主人のいとこが店頭に立って、お客様を迎えます。

  • 人気商品のひとつ、今井さん手作りのスコーン。
    砂糖は使わず、小麦やオーガニックアーモンドの甘味が香ばしく口の中に広がり、ザクザクとした食感もアクセントになります。スコーンがお店に並ぶ日はfacebookなどで知ることができるので、それを目当てに来られるお客様もいます。

  • 取材の日、常連の男性がいらっしゃいました。話をお聞きすると「このお店には穏やかな空気が流れていて、また来たくなる。それにパンは味わい深く五感で食べる過程を楽しむことが出来る。“自分達の手でいいパンを作りたい”という信念を感じるんです。これからも自信を持って頑張って欲しいですね」と話してくださいました。
    ここを訪れるお客様は今井さんご夫婦が作るパンの優しい味や人柄、お店の空気に魅了され、何度も訪れる方が多いのです。

  • 店内には、今井さんが出会った作家の作品も展示・販売されています。

  • お店の隣には畑があります。ここで育った野菜はパンにも使用されていています。冬の時期は大根、キャベツなどの根菜、夏にはズッキーニやトマトなど、季節ならではの野菜が元気に育ちます。

  • お店は住空間と繫がっています。ドライフラワーや三輪車、フィルムカメラといった古道具が色あせることなく大切に使われており、“相手が人でも物でも大切に丁寧に向き合う”今井さんの人柄が表れ、お店の空気をつくっています。

  • 大学時代は領域に関係なく、それぞれの表現方法で芸術に向き合う仲間たちと語り合う日々の中で“自分らしくものづくりに向き合う”ことができたのだそう。今井さんは当時を振り返り、「あの学校に行って初めて息が吸えた気がした。私はここにいていいんだ、と実感できた。新しいことに対して一歩が踏み出せない時に“やってみれば”と背中を押してくれる仲間がいたから、今があるんです」と感謝の気持ちを話してくれました。何に対しても挑戦する前向きな姿勢は、パン屋の今も変わりません。

  • 自然がたくさんある環境で、二人の息子さんが庭や家の中を走り回っていました。

  • 天然酵母にもこだわってパンを作り続けることは簡単ではないと今井さんは言います。それでも自分たちの手で生み出すことにこだわるのは、自然からの恵みや、お客様との触れ合い、今の暮らしから見えてくる幸せな瞬間への「感謝の気持ちを伝えたい」という想いの表れです。そんな「サヴァシバ」の手作りパンを食べると1日が幸せな気分で満たされます。

text:木村郁花/photo:CHIMASKI/February,2018

お店について

Cavasiba(サヴァシバ)

〒491-0813 愛知県 一宮市千秋町町屋仲橋19
TEL 0586-58-3035
営業日 水・金
営業時間 11:00~17:00 ※パンの出来により営業日が変わる事があるので、facebook等で確認してください。
https://ja-jp.facebook.com/cavasiba3848?fref=photo

卒業生の紹介

今井 早百合(いまい さゆり)

1968年長野県生まれ。京都芸術短期大学、染織テキスタイルコース卒業。大学時代は染織を専攻する一方、写真や小説の制作も行なう。卒業後には映画のシナリオも手掛け、コンペティションで入賞したことも。東日本大震災を機に「生き方」について考え、自然とともに暮らす生活を送る。現在は天然酵母手作りパン屋サヴァシバ」を営み、体に優しい自然農の野菜や小麦を使用したパンを販売している。

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